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松山地方裁判所 昭和30年(行)12号 判決

原告 柳原秀次

被告 壬生川町長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三十年九月二十六日附を以て原告に対しなした壬生川町周布地区農業委員会委員の解任処分は無効であることを確認する訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、原告は愛媛県周桑郡前周布村村議会の推薦により選任された同村農業委員会委員であつたが昭和三十年一月一日旧壬生川町他周布村を含む四ケ村が合併して現壬生川町が成立した後引続き同町周布地区農業委員会委員としてその職務に従事していたところ、同町町長たる被告は同町議会の請求に基き農業委員会等に関する法律第十七条により昭和三十年九月二十六日附を以て原告に対し解任処分をした。併し右解任処分は次の理由により違法無効である。即ち右法律第十七条によれば市町村議会の推薦によつて選任された農業委員会委員を解任するにはその委員を推薦した議会から解任すべき旨の請求があつたことを要するのであつて前述によつて明かな如く壬生川町議会は原告等農業委員会委員を推薦した議会ではなく、同議会の解任の請求に基く本件解任処分は違法無効である。仮に右主張が理由がないとしても昭和二十九年十一月十六日の旧壬生川町他四ケ村の合併促進協議会の協定事項として農業委員の任期定数は現委員の任期中はそのままとする旨決議がなされ右は前記町村合併の基本事項であるから壬生川町議会は原告等合併前からの農業委員会委員の解任を請求することはできない。従つて同町議会の請求に基く本件解任処分は違法無効である。よつて被告に対しその無効確認を求めるため本訴に及んだ次第である、と述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として、被告が原告主張の日原告の壬生川町周布地区農業委員会委員の職を解任したことは認めるが、市町村合併によつて新議会が成立した以上新議会は合併前の市町村議会の推薦によつて選任された農業委員会委員の解任を請求する権限があり壬生川町議会に於て右解任決議がなされ同議会の要求により被告は原告を含む十三名の議会推薦によつて選任された農業委員会委員を解任したものであり、何等違法でない。又合併促進協議会の協定事項には各地区の農業委員会をそのまま存置することは決議されているが委員をそのままとする旨の決議はなされていないからこの点に関する原告主張も理由がない。その余の原告主張事実はこれを認めると述べた。(立証省略)

理由

原告が愛媛県周桑郡前周布村村議会の推薦により選任された同村農業委員会委員であつたこと、昭和三十年一月一日旧壬生川町他周布村を含む四ケ村が合併して現壬生川町が成立した後原告は引続き同町周布地区農業委員会委員としてその職務に従事していたこと、同町町長たる被告が同町議会の請求に基き農業委員会等に関する法律第十七条により昭和三十年九月二十六日附を以て原告に対し解任処分をしたことはいずれも当事者間に争がない。

原告は先ず被告の右解任処分は原告等農業委員会委員を推薦した議会でない壬生川町議会の請求に基きなされたものであるから違法無効であると主張するのでこの点について判断する。前周布村は前記昭和三十年一月一日の合併によつて消滅し新に現壬生川町が成立したのであるから壬生川町議会は農業委員会等に関する法律第十二条により前周布村長に対し同村農業委員会委員として原告を推薦し、同法第十七条により同村長に対しその解任請求の権限を有していた同村村議会に代り壬生川町長に対し右解任請求の権限を有すること明かであるからこの点の原告主張は理由がない。

次に原告は仮に右主張が理由がないとしても旧壬生川町他四ケ村の合併促進協議会の協定事項として農業委員の任期定数は現委員の任期中はそのままとする旨決議がなされているから壬生川町議会は原告等農業委員会委員の解任を請求することはできず、同議会の請求に基く本件解任処分は違法無効であると主張するのでこの点について判断する。昭和二十九年十一月十六日旧壬生川町他四ケ村の合併促進協議会が開催されたことは当事者間に争がないけれども右協議会に於て原告主張のような決議がなされたと認めるに足る証拠はなく、唯々成立に争がない甲第八号証の一及び同号証の六、七を綜合すれば右協議会においてこの点に関し、新町(壬生川町)をその区域とする一つの農業委員会をおく、但し現在の合併関係町村の農業委員会委員の任期中に限り従前の町村に設置された農業委員会の区域をその区域とする地区農業委員会を置く旨の決議がなされたことを認めることができ、右は原告等合併関係町村の農業委員会委員の任期は合併によつて影響を受けないことを当然前提としているものと解せられるけれどもかかる決議があるからと云つて、権限を有する壬生川町議会が原告等合併前からの農業委員会委員の解任を請求することができないと云い得ないこと明かであるからこの点に関する原告主張も理由がない。

そうだとすれば、被告の本件解任処分は原告主張のような違法な点はなく、原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 伊東甲子一 木原繁季 篠原幾馬)

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